今日もプリエから:「自分の足で立ちなさい」
「自分の足で立ちなさい」
先生が何の気もなく発した言葉を、“バレエに対しての注意だ”と頭が認識できなかった。
たったの一言なのに、ずっしりと自分の心の奥底にまで突き刺さる。紙にぎっしりプリントされた文字列の中で、その部分だけが違った色で光っているみたいに、頭から離れない。
いつも行われる、バーレッスンの途中。左足パッセで、ルルベバランス。
左足のつま先を右足の膝あたりにくっつけて、三角形を作る。右足が軸で、片足のつま先立ちでバランスをとる練習だ。つまり、1本の足で立つ。
毎週のレッスン、決まった通り同じように上手くできる……なんてことはない。その日の精神状態や身体の調子、ちょっとしたことでバランスを崩してしまう。
でも、幼少の頃から続けている基本なのだ。これができなければ、何回転もする「ピルエット」なんて、とてもじゃないけどできるようになる訳がない。
良い大人がぐらぐらして、よろよろして。踵を床に落としたり、立っていられなくてバーにしがみつく。ぎゅっとバーを掴んだ右手が、なかなか離せない。
そんな生徒たちを見て、すかさず先生がかけた言葉だった。
「自分の足で立ちなさい」
世間から見れば、もう良い年齢なのに。まだまだ誰かに頼れないと生きていけない自分を、ちょうど情けなく思っていた時だった。
バレエと今いる自分の人生の状況はどこかで繋がっている。自分の情けなさが、踊りに出ることもあるだろう。
本当は、バレエでも人生でも、見えないけれどしなやかで強い、自分の軸を作っていきたい。毎週のレッスンに通い続ける理由は、そういうことなのかもしれない。
▼前回の「今日もプリエから」
20年以上続けてきたバレエのお稽古について、毎週日記を綴ることにしました(エッセイスト・森下典子さんの『好日日記』に憧れて)。バレエについて書くことは、人生について書くこと。